全日本女子プロレスの会長だった松永高司さんが亡くなった。
オイラは後楽園ホールを始めとする有名会場で、全日本女子プロレスの大会を観ることが一度も無かった。
近所のスーパーに置いてある割引券を手にとって、隣町のお祭りに行くような気分で、近所で行われる地方巡業を観戦する。席は勿論立ち見だ。子供の頃からそんな感じで全女の大会にちょくちょく赴いていた。
オイラの全女観戦歴は、全部この近所の野外特設会場で開催されたドサ回り興行で占められている。
そんなオイラの心に残る全女の思い出を順序不同で挙げていくと、
近所の電柱に何年も昔に貼られたまま風化して残っていたポスターの残骸。そこに写るマミ熊野の色っぽさ。
近くで見ると単にガラの悪いおっさんだったミゼットレスラー。
オヤジ層の客たちの目を釘付けにしたハニーウイングス(前田薫&高橋美華)のレオタードコスチューム。
子供心にドキドキさせられた、間近で観るベルベット・マッキンタイヤー。
近所のおばさんにあまりにそっくりなので、思わず爆笑してしまったローラ・ゴンザレス。
何もかもが撤去されて、また元の何の変哲もない駐車場に戻ってしまった大会翌日の寂しい風景。
そして松永会長が自ら焼いていた、美味くも何ともない焼きそば。・・・・合掌。
本作以前にスーファミやPCエンジンなどで発売されていた全女ゲームは、いずれも交流戦華やかりし頃の、全女何度目かの(そして最後の)絶頂期に作られていた物でした。
それに対して、この最後の全女ゲームとなってしまった女王伝説が発売されたのは、全女の洒落にならない台所事情が表面化してしまった'98年。
このゲームを作っている真っ最中に、全女の銀行取引停止処分、経営危機表面化、そしてアルシオン、NEO、全女残留派への選手の三派分裂なんて事態が立て続けに勃発したのでしょう。
次代を背負って立ったナナモモやワッキーらも、この時点ではまだ単なる若手選手。
そんなわけで、苦肉の策か、あるいは単なる開き直りかは分かりませんが、本作は「団体の枠を超えた実現不可能な夢の対抗戦!」のキャッチフレーズの元に、三派に分裂してしまった選手たちを再び集結させています。
全女残留派からは、堀田祐美子、豊田真奈美、井上貴子、伊藤薫、渡辺智子。NEOからは井上京子、前川久美子、下田美馬、三田英津子。アルシオンからはアジャ・コング、チャパリータ、そしてタマフカの二人。
しかし幾らゲームが夢の対抗戦を謳おうと、我々としてみれば「夢もクソも、半年くらい前まで同じ団体でさんざん闘いあってるじゃねえか。」というツッコミを入れないわけにはいきません。
選手の入場は全て実際の入場シーンの実写ムービー。今ではちょっと考えられないモンドなテイストの入場コスチュームはインパクト充分。
選手の技や受け身のモーションなどは結構よくできているのですが、もう一つのウリである選手の肉声(氏家リングアナ含む)は、ちょっとトホホな仕上がり。
恐らく選手たちは、声をスタジオ収録するときに「聞き取りやすいように、語尾をはっきりさせてゆっくり明瞭に喋るように」などと言い聞かせられたのでしょう。
おかげで試合中は「こ・の・や・ろ・うー」「たー・かー・こー」「い・た・た・た・た・た」などと、およそ臨場感に乏しい、いや、それどころか、あまりにも不自然過ぎてキッチュ極まりないボイスが、のべつまくなしに鳴り響く始末。
そして非常にもっさりとした選手の動きと試合展開が、女子プロレスらしさを大幅に損なっているのも気になるところです。
選手のモデリングも、なんか凄いことになっています。アジャと京子を除く全選手の顔が、安物のビニール製ダッチドールの顔と瓜二つ(特に豊田)。
「いや、同時代の闘魂列伝とかも、動きは結構もっさりとしてたし、顔なんかもとんでもないことになってたじゃないか。」と言われてみればそうかもしれませんが、そうなるとこの女王伝説の場合は、素材が女子プロレスなだけに、余計にそんなもっさり具合や顔のモデリングの酷さが強調されてしまうのかもしれません。
ただ、発売から10年も経てしまった今では、そんなこの時代のポリゴンプロレスゲームの優劣なんてのは、些細なことでしかありません。今の目から観れば、どれも五十歩百歩です。
逆に今の時代からしてみると、全女最後のビデオゲームであり、末期全女の混乱ぶりをその背景に持つこの女王伝説は、エキプロや闘魂列伝などより遥かに興味深い作品であると言えるでしょう。
本作が登場した頃には、誰もが風前の灯火と思っていた全日本女子プロレスですが、なんだかんだ言いながらその後、五年以上に渡ってしぶとく延命。
しかし、旅回りの巡業を愛した稀代の興行師、松永会長の波瀾万丈の人生と共に、その全女の30年以上に渡る長い歴史にも、遂に本当の意味でのピリオドが打たれのではないでしょうか。
安らかに・・・・、と言いたいところですが、松永会長に限っては、あの世でもじっとしているようなイメージは、なんとなく湧かないですね。
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タグ:プロレス



私は、86年以前の女子プロレスに憑かれた、過去を愛する者です。
与一さんの子ども時代の思い出話に、感銘を受けました。
これは、詩です。文学ですよ。
失われた時代を懐かしむ、とても優しい文章で、過去に対する与一さんのあたたかな気持ちを感じました。こういう方がご自分の想いを文章にされて、こうして発表されていることを、とても嬉しく感じております。
松永会長が逝去されたことで、与一さんが体験された歴史も、これでもはや永遠に過去のものとなり、多くの人が語らぬ、文字通り伝説の領域に入りつつあります。
願わくば、与一さんがまた過去を語り、その思い出話をただ懐かしむだけでなく、失われた何かを現代に取り戻そうという人たちの多からんことを……。
全国津々浦々、いろんな街で、ちょっぴり色気づいたガキたちの心に強烈な何かを残しては、風のように去っていった一座。
普段はプロレス中継などに見向きもしない友人たちも、全女が近場に来ると何故かそわそわして一緒に付いてきたりしました。
思えばプロレスファンでない一般の人たちが、一番多く生で接していたプロレスも全女だったのかもしれませんね。