
トヨタの完全撤退。そしてルノーも撤退の検討を始めているなど、何やら風雲急を告げているF1。
モータースポーツというのは他のスポーツと違って、産業と密接な関係を持ちながら歩んできたジャンルであるが、その肝心の産業がT型フォード以来の百年の歴史から初めての一大転換期を迎えようとしている今、モータースポーツもその在りようを大きく問われる時に入っていると言えるだろう。
これがNASCAR辺りであったら、例え電気自動車が主流の世界になろうとも、「いや、俺たちはあくまでこれを勝手にやってますから」とばかりに、モンスターマシンがごりごりと体を擦り合わせるレースをやり続けていき、ファンも相変わらずそれに声援を送り続ける光景というのは、有り得るかもしれない。
しかし、ことF1に限っては、今の規模で大会を運営し続けることは、到底不可能に近いのではないか。
それに何よりも、この一大転換期にFIAという旧態依然とした組織が対応できるとは、とてもじゃないが思えない。電気自動車時代のモータースポーツを司るのがFIAである必要は全く無いのだし。
自動車そのものの在り方が大きく変わろうとしている中で、F1の未来は果たして存在しているのだろうか。
五年後くらいにはF1が消滅している。そんな事態になっても一向におかしくないかもしれない。

ソニーがF1のライセンスを独占して、F1ゲームがPSプラットフォームのみで発売される状況が、最近まで長く続いていたが、それ以前のF1ゲームは、各ハードで競って登場していた。
メガCDで発売されたF1ゲームの密かな秀作ヘブンリーシンフォニーに、「おーっと、右京逆走!何を考えてるんでしょうか!」と三宅アナになじられてばかりのF-1 Live Information(サターン)。
いずれもフジテレビが大きく関わっている作品だが、それだけフジサンケイグループとF1は、我が国に於いては切っても切り離せない関係だったということだろう。
そして我らが3DOに登場したF1ゲーム、その名もF1GPは、その決定版とも言えるような作品だ。なんたって本作は、企画・制作・販売をポニーキャニオンが担当。つまり、フジサンケイグループが総力を挙げて送り出したF1ゲームなのだ。

しかし、このF1GP。当初は3DO立ち上げ時期での発売が予定されていたのだが、そのままずるずると発売は延期されていってしまう。
当時の3DO専門誌に載ったこのゲームの広告などには、「これまでにない本格的なF1レースシミュレーターを目指し、妥協を許さずクオリティアップに努めています。もう少しお待ちください」なんて弁明が出ていたのだが、そんな言葉を額面通りに受け取る純粋な時代が俺にもありました。
そして本作が遂に発売されたのは、3DOが既に黄昏の季節に突入していた'95年の終わり頃。
当時、家庭用ゲーム機のモータースポーツゲームでは、あのデイトナUSAがぶいぶい言わせていた時期でしたが、実に二年以上の時を掛けて練り込まれたこのF1GPは、デイトナUSAなど軽く吹っ飛ばすほど充実した内容だろう。そんな期待もひとしおだった。

ゲームを起動させると流れるのは、当時のF1中継のオープニングでさんざん眼にしたあのCG。BGMはもちろんT-SQUAREの"Truth"。テレビで観る流れそのままだ。さすがフジサンケイグループが総力を結集したF1ゲーム!
一刻も早くコースに飛び出したい気持ちを抑えて、まずはデータベース部分。
シューマッハ、デーモン・ヒル、ベルガー、アレジ、クルサードら、当時のトップドライバーたちの詳細なプロフィール。
そしてウィリアムズやフェラーリは元より、シムテックなんて徒花チームまでのデータを網羅し、それにミニコラムまで付け加えている。
圧巻は各コースの紹介だ。コースごとのレース結果データに、サーキットにまつわるトピック。コーナーごとの攻め方を詳細に解説してもいれば、過去のレースからピックアップされたムービーまでも収録してある。
さすがフジサンケイグループが総力を結集して(以下略)。まさにF1ゲームの集大成を目指していると言っても過言ではないだろう!

さらには些細な箇所までに及ぶ細かいセッティング項目。”リアリティ溢れるF1ゲームを目指して、二年間ブラッシュアップを重ねてきた”、そんな煽り文句が嘘には見えないぞ、ここまでは!
気分を昂ぶらせてコースに飛び出した俺。すると画面に映るのは、まるで幼児が作った積み木細工の様な自称F1マシン!
そんな不細工なシロモノが、まるでコースの上をつるつると滑るかのように移動していくその様を目の当たりにして、俺は十秒余りの間、パッドを操作するのも忘れて、ただ呆然と画面を凝視していたのだった。
フジサンケイグループが総力を挙げ、二年の歳月を掛けて送り出したのが、こんなメガドライブ版バーチャレーシングとどっこいの貧相なシロモノだったとは。あいつらに期待した俺が馬鹿だったぁ!
もちろんバーチャレーシング云々というのは、見た目だけの比較であって、肝心のゲーム部分はバーチャレーシングには、まるで及んでいないということは、あえて付け加えるまでもあるまい。

このF1GPは3DO末期の作品ということもあって、幸いなことに多くの人の眼に触れることなく終わってくれた。
そしてF1のライセンスをSCEが独占取得。あの大傑作、Formula 1(制作を手がけたのは、あのPGRシリーズのBizarre Creationsだ)を皮切りに、長きに渡ってF1ゲームを一手に供給してきたのだが、その独占契約も切れ、現在F1のゲーム化ライセンスは、コードマスターズの手に渡っているらしい。
そんなコードマスターズにしても、F1そのものの先行きについては、気が気ではないところだろう。
なにせ10年後にはF1ゲームというジャンル自体が、スピリット・オブ・スピード1937のような存在になっているかもしれないのだから。

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